アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「もしかしたら」

伯母は少し躊躇うように言った。


「平清盛の子供の誰かに隠し子が居て、その子が先祖かも知れないんだって。尤も父は大ボラ吹きだったけど」
と。

その時。
伯母の言葉に、水野先生の顔色が変わる。

その瞬間を見た私は、言いようのない不安に駆られていた。


水野先生の顔は、電車の中で苦痛に喘いでいた時と同じように険しくなった。


(私はあの時、ただ見ていることしか出来なかった。又そうだったらどうしよう)

重苦しさが私の心に漂っていた。




 ダムに沈む村。
僅か十分位の中に、もう二度と見られない景色がふんだんに盛り込まれていた。


「あっ!?」
水野先生が声を上げた。


「すいません。今のところもう一度お願い出来ますか?」


「今のところ? あ、ちょっと待ってね」

伯母が機転を利かせて、その少し前まで巻き戻す。


「あ、此処……」

水野先生は頭を抱えた。


「デジャヴかな? 何処かで見たことがある」


「デジャヴって?」
私は母に質問した。




 「私も良く解らないんけど。ホラ、初めて来た道だけどなんか懐かしいって思うことかな?」


「脳にインプットされた記憶がよみがえってくるのかな?」


「そんなトコかな?」
母はそう言いながら、水野先生を見ていた。


水野先生はまだ苦しそうにただビデオを見ていた。


(先生どうしたの? その苦しみは一体何処から来るの?)




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