アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 ……ブォーッ!!

その音で目が覚めた。


「あれっ!? 此処は何処!?」


「やっとお目覚め?」
清水さんのお母さんが笑っていた。


「すいません。この子には事情がありまして、やっと私達の元に帰って来たばかりなんです」

本当の母が言っていた。


「事情って?」


「実は、誘拐されていたんです」

母の発言で全員が静まり返った。




 「僕は母だと聞かされていた人に殺されかけました。でもその人は本当の母ではなかったんです。僕を誘拐した犯人だったんです」


「私が乳母車に乗せて買い物していて、目を放したホンの僅かな時間に居なくなってしまったのです」


「僕はその後であの島の教会の前に放置された訳です」


「営利誘拐を疑いまして極秘に捜査が進められましたが、結局見つから仕舞いでした」


「営利誘拐ってことは、相当の立場の方だと思いますが……」

その言葉に慌てて、父は名刺を差し出した。


「株式会社翌檜(あすなろ)物産、取締役社長……えっ、えっー!?」

其処にいた全員が又……
驚きの声を上げた。


「犯人は、私の前の婚約者でした。私は当時極秘に別会社で研修していました。でも彼女は私の素性を知って近付いてきました」


「良く解らないのですが……。主人の話ですと泥酔させて関係を持ったようです。子供が出来たと嘘を言ったようです」


「結婚を迫ったと言う訳ではなく、私から言い出すように仕掛けたのです。産婦人科で調べてもらったとも言ってました。計画的犯行だったのです。それを知って、私は婚約を解消致しました」


「だからこの子は狙われました」


「彼女にしてみれば、私が裏切ったと映ったのでしょう。それで恨まれて……いや、彼女は私との生活を夢見ていただけなのかも知れない。私が勘繰ったせいで、破滅の道を歩ませたのかな?」

そう言いながら父は頬を伝わる涙を拭っていた。




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