アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 僕は本当の両親に聞いてもらいたいことがある。

実は僕はこの世に存在していないんだ。


人が失踪したり、行方不明になったりした時は七年経てば死んだ者と見なされるそうなのだ。


両親はそれでも諦める切れないで、十年目でやっと手続きをしたそうだ。


だったら、僕は僕としてあの島に戻りたいんだ。

弟達と社長の席を奪い合いたくない。
って言うのが本音だけどね。


僕には島で育ててくれた母がいる。
その人のことを一生大切にしていきたいんだ。




 だから僕は敢えて、少年院の辛い思い出を話始めた。


「さっきも話しましたが、少年院には水泳大会もあるんです。シンクロなんて物もあってその練習中。バレなかったことに気を良くした先輩は、又悪巧みを始めたんです。どんなに下手に出ても、僕は気に入られていなかったようで……」


「又って、前にもか?」

父の問いに頷いた。


「だから僕は又、プールの水の中に頭を押し付けられたんです。そのリンチは凄まじかった。苦しいかった。息が出来ずに苦しみもがいて……どうやら僕はリンチの最中に気絶したようです」


「そんな……ヘタするば命だって……」


「其処は弁えているようです。伊達にネンショ暮らしはしていないようです」

両親は堪らずに僕の体を抱き締めていた。


「こんな時に言うべきことじゃないけど、僕やはり一緒に住めない。僕は魘される。きっとあの夢を見て……。だから僕は、僕としてあの島で生活していたいんだ。どんなに迷惑かけるか判っているけど、島のお母さんには僕だけだから……」


「もしかしたらこの子達のことを考えているの?」

母は察したようだ。


「お前ってやつは」


「全てこの子優しさですね。そして島のお母さんの人柄ですね。このような慈愛に満ちた子に育てていただいて……」

両親はもう何も言わず、車窓に目を移した。


「私夏休みにオバさんにあったの。あの時寂しそうだった。何だか歳を取ったなって思ったの」

清水さんがそう耳打ちしてくれた。


ちょうど上長瀞の駅を通過したところだった。




 ……ブォー!!
その音が又聞こえていた。

上長瀞を過ぎた場所にある鉄橋。
そこで汽笛を鳴らすんだ。


あの時、この音で母は怯んだ。
僕はその時、川の石を拾い上げて僕の頭の上にある母の頭を叩いたのだ。


パレオエキスプレスが鉄橋を渡る。
この下で僕は殺されかけた。


そう思いながら、合掌した。




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