アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 島に着いたら、清水さん一家が船着き場で待っていてくれた。


「えっ!?」

私が驚きの声を挙げたからか……
水野先生はニンマリしていた。


「あーっ、もしかしたら先生が……?」


「そうだよ。彼を送って来るついでにね」

水野先生はウィンクをした。


「春休みだからか……」


「そうだよ。それから……ついでにこれからの島での生活をサポートもお願いしたんだ」


「――って。もしかしたら元々企画していたとか?」


「鋭い……」

水野先生は笑って誤魔化していた。


それはまさにサプライズだった。

私は彼を埠頭まで送り届けたらすぐに埼玉に戻るものだとばかり考えていたのだ。

だって水野先生の叔父さんも、中学の先生なのだから……


でもきっと、彼と出会う前から企画されていたことだと思った。

きっと、私がこの島で生活していくために必要な知識を伝授してくれることを頼んでくれたのだ。


水野先生のそんな我が儘なお願いをイヤな顔も見せないで引き受けてくれた清水さん一家。
感謝しても足りないと思っていた。




 清水さんの隣には彼もいた。

彼は、これからずっと島で生活することになる。


だから、清水さんとは又離れ離れになってしまうのだった。


私は熊谷でのSL好きなおばさんとの出会いを懐かしく思い出していた。

あれがなかったら、今彼は此処にはいないのだから……




 今まで耐えていた感情が吹き出した。

父の嫌がらせによって泣いてばかりいた私。


そんな荒んだ人生を、バラ色に変えてくれた恋人。


いくつもの試練を一緒に乗り越えてくれた恋人。


ウエディングドレスを着たままで私は、幸せを噛みしめていた。

こんな素晴らしい出会いと巡り合わせに改めてを感謝しながら。


私と水野先生を引き合わせくれたのは、渋谷で待ち合わせをしてくれた叔父さんなのだから……

今此処で、優しそうな眼差しで私達を見つめていてくれている清水さんのお父さんなのだから……



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