アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 その建物の前ではタレントらしき人が熱唱していた。それを懐かしそう見てる母。


「知ってる人?」
私が聞くと首を振った。


(そりゃそうだ。私の知らないユニットを母が知る訳ないか?)

そう思っていた。


「前にここで見た人のファンになってね」


「ああ、RD?」


(えっ!? RD? そうか此処で出逢っていたのか? あんなに夢中になれる存在に……)


ここ何ヶ月か母は同じ歌ばかり聴いている。

年甲斐もなく、若者の歌が好みのようで、CDラジカセからはいつもロックが流れていた。
RDと言うグループのハピネスと言う曲だった。


このグループは元々、ノリノリのダンスメロディーが多かった。

でもこれはしっとりしたバラードだった。


(きっと父に内緒で此処に来たのだろう)

私の知らない母が其処にはいた。




 母の居る場所はすぐに解る。
それは何時もこのグループの曲が流れている傍。


母は音楽好きだった。
と言うより、音楽依存症だったのだ。


父の居ない時に、哀しみを音楽で癒していたのだった。


その哀しみが何処から来るのかは判らない。
でも、父と結婚したことが関係していると思っていた。




 此処には雑貨や小物はあってもCDは無いはずだと思い、私は母の手を引いた。

ふと見ると母の目には涙が溜まっていた。


「ほらまた泣く。CD買うなら渋谷でしょ?」
私はそう言いながら、母の背中を押した。

母の背中が小さく思えた。
母はまだ祖父の死を背負っていた。



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