アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 父とはこの前、SLに乗ってさよならの思い出作りをしたと思っていた。


あれはきっと作戦?
私にそう思い込ませようと水野先生が仕掛けたのかな?


(イヤ、誘ったのは確か私達だったはず……)


だけど……
そんなこともうどうでもよくなった。

私は素直に父を信じればいいんだ。


だけど幾ら何でも、恋人と父を間違えるなんて……


(父の匂いって何だったのだろう? 何年か前まではタバコのヤニ。今は? 判らない。でもこの香りは……? 確か渋谷で……。そうあの時のオーデコロンの香り……。私をときめかせたあの出逢いの時の……。だから判らなかったんだ……)




 私は苦笑しながら真っ直ぐ歩いていた。


父の手が髪に触れ、そっと目隠しが外される。


目の前には大好きな水野先生が待っていた。

私は愛する王子様の待つ祭壇へと一歩一歩近づいて行った。


まさにサプライズ。
そのものだった。
まさか父が……
其処にいるなんて……
それも水野と同じオーデコロンを付けて……


そう言えば……
水野先生は学校ではあの香りを付けていなかった。


(だから昇降口で気付かなかったのか……。きっと私を驚かすために考えたんだ。意地悪……。本物に意地悪……)

私は水野先生を見つめた。


でも本当は水野先生の気配りに泣いていた。


父のエスコートだけじゃない。

三三九度だけだと思っていた結婚式が、又挙げられなんて思ってもいなかったから。


父も泣いていた。

妻と娘を信じてやれなかった、心の弱さをさらけ出しながら。




< 161 / 179 >

この作品をシェア

pagetop