アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「俺のお姫様」
島の高台で水野先生がキスをくれる。


「やっぱり私は先生のお姫様だったの?」


「ううん。綾、君はこの島のお姫様なんだよ」


話が見えない。

どうして私が……


「からかっているの?」
そう聞いてみた。


「ううん、違うよ」


昔、壇ノ浦で敗れで散り散りになった平家は山へと逃げた。
でも深傷を負い辿り着いた島で暮らす者もいた。

その一つがこの島だった。


彼らの使命は平家の子孫を残すこと。

それは清盛の孫と言われた姫だった。




 でも島の中に姫は居なかった。
守っていた兵士が散り散りになってしまったためだった。

源氏の厳しい探索で島からも出られず長い年月が流れた。


「俺の曾祖父は此処の出身で軍人だった。でも平家側の人間だと言えず源氏側の嫁を貰ったんだ。ホラ徳川って、形の上は源氏側なんだよ」


「えっ徳川!?」


「形式上では、何処やらの藩に嫁いだ将軍様の娘の血筋だそうだ」


「えっーー!? それじゃあ、本物の王子様!?」


「いや違う。俺は今家族の希望で、平家側として此処にいる。だから綾、君こそそのお姫様なんだよ。この島のお姫様なんだよ」


「本当に私なの?」
私はまだ信じられないでいた。


「俺は自分の直感を信じるよ……だから綾も……」

水野先生はそう言うと、私に優しくキスをした後で身体をフワリと持ち上げた。


「これが本当のお姫様抱っこかな」
そう言いながら。


「姫の子孫を探すことが曾祖父の遺言なんだよ。本家の次男がその姫の子孫を探しだし、結婚してこの島を落人ではない本物の平家の島にする……」


「えっ、だから私は此処にいるの?」


「そうだよ。清水の叔父も本当は探し出さなければいけなかったんだ。でも叔父さんは清水のお母さんと恋に落ちた。だから此処の教師になって、情報を集めていたんだ。だから俺もと考えたんだ。でも、綾で良かった」

水野先生は私の身体をそっと下ろし、優しく抱き締めてくれた。


「運命だったんだよ。俺達の出逢いは……」


「運命?」

私は水野先生の言葉の奥にもっと深い何かを感じて、見つめていた。




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