アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「だからお願い。私を島に行かせてください」


「学校はどうする? 先生になるのが夢だったはずだけど……」

父が痛いところを突く。
そう……
確かに私は教師になりたかったのだ。


「実は彼も、彼の夢も教師だったの。彼、お父さんに物凄く憧れていたから……」


「えっ、それだったら余計に此方にいた方が……」


「あっ、それはダメ。彼はおばさんと暮らしたがっているから」


「そうよね。あの子優しいから……」


「だから……私も彼の傍で……彼と一緒に勉強したいの」


「確か島を離れることが決まる前に、文部科学省認定の何とかがあるとか言ってなかったっけ?」

姉が助け船を出してくれた。
そのことで私は勇気百倍になった。


「高校程度でしょう? 私は彼にそれを勧めたの」

私の言葉を聞いて、両親は目を丸くした。
そして態度が変わった。


「お父さん。波瑠はもう子供じゃないのね。何時の間にこんなに生長したのかしら?」


「そうだなお母さん。波瑠はもう立派な大人だな」


「私達は自分のことばかり考えていたのかも知れない。島に高校がなければ、私達で教えれば良かったのよ」


「でもお母さん。そんなこと言ったら、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが可哀想でしょう? 私は埼玉に戻って来て幸せだったよ」

姉がフォローを入れた。


祖父母のことを思えばの発言だってようだ。


「私は高校で沢山の思い出が出来たの。島で勉強していたのでは手に入れることの出来ない宝物を……。だから感謝してます」

姉は本当に出来た人だ。




 勿論私にだって友達と言う掛け替えのない存在はいる。
でも親友と言える、たった一人があの島に居るんだ。


「実は綾ちゃんは、水野先生に勉強を教えてもらって高校程度を受けるんだって。それから通信教育で大学の勉強をして、あの島の先生を目指すんだって。だから大丈夫。私も行かせてください。二人で、ううん、彼も入れて三人で頑張りたいの」


「私からもお願い致します」

私は姉と一緒に三つ指をついた。


「あっ、心配しないでね。私は此処に残るから」
姉が抜群のタイミングで又フォローを入れた。



 姉のお陰で私は又島へ行けることになった。
お礼かたがた質問した。
どうして、水野先生と噂を立てられたのか知りたかったのだ。


「だって貴女は本当に彼のことを心配していたでしょう? 私の進学で貴女達を巻き込んで、本当は申し訳ないと思っていたのよ」




< 167 / 179 >

この作品をシェア

pagetop