アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「そうか。だからなのね。彼を長瀞に招待してと母にお願いしたことを後悔していたのね」

そう……、姉は自分を責めて泣いていたのだった。


「だから水野先生にも協力してもらった訳よ。でも結局解らなかったのだけどね」


私が島から帰った後で告げたことを自分のせいだと思っていたのかも知れない。
だから、余計に親身になってくれたのだろう。
でも、本当にラブラブじゃなくて良かった。




 早速高校へ行き、退学届けを出した。

綾ちゃんに次いで私だったから、元担任は目を白黒させていた。


「全くアミダくじペアーは……」

担任のその言葉で体育祭の時の綾ちゃんの告白を思い出した。


でも、もう一つのことが解らない。


「先生。あの時一体何があったのですか?」


「あの時?」


「ほら、雪の降る日に綾ちゃんが……」


「ああ、あれか?」

担任は暫く悩んだ後で、誰にも言わないとの条件付きで打ち明けてくれた。

綾ちゃんが本物の灰被りになった日のことを……




 綾ちゃんは自転車で、全身までもが真っ白になりながらもどうにか会場までやってきたようだ。

でも警備員に不審者扱いされて足止めされた。
それでも何とか会場へ行こうと駆け出したら取り押さえられて拘束されたようだ。


体力はもう限界で、演技など出来る状態ではなかったそうだ。
そのあまりの姿に、担任は泣いたそうだ。




 『父が自転車で行けって言ったの。車を汚すのイヤみたいで』


『この子は今始まった劇の主役だったんですよ! どの位此処で止められていたのかは知らないけど、確実に間に合ったはずです。可哀相だとは思わないのですか?』

そう言ったのは水野先生だったそうだ。勿論担任も言おうとしたが先を越されらしい。


『シンデレラの演技は出来なかったけど、佐々木は本物のシンデレラになったな』

その言葉の意味が解らなくて、綾ちゃんは水野先生を見つめたそうだ。


『灰被りだ。シンデレラと言うのは、灰被りと言う意味なんだ。本当は、物凄く汚いと言う意味なんだ。今日の佐々木は間違いなくその灰被りだった』

遂に綾ちゃんは嗚咽を漏らし始めた。


『でも佐々木、物凄く綺麗だ……』

見ると、水野先生も泣いてくれていた。


『佐々木。メチャクチャ綺麗だ。こんな可愛いお嬢さんをお父さんは……』

水野先生も声を上げて泣き出した。

それに吊られて担任も泣き出した。




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