アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 彼は医療少年院で催眠治療を受けたようだ。

その時、担当者は違和感を覚えたてらしい。


『父親殺しに関与していない』

それが結論だったのだろう。


それでは誰が……
その答えは彼の夢が知っていた。


……ブォーッ!!

あの音で命拾いした正当防衛に至る経緯で……

旦那に掛けられていた保険も彼と同じだったのだ。


旦那を殺そうと掛け金の安い保険に入り、チャンス伺っていたところへ彼が現れたのだ。

だから彼女は彼を付け狙ったのだ。

そう結論付けられた。


でも彼はすぐに退院出来なかった。
心のケアが大事だと思われたからだ。

それに彼を引き受ける人が居なかったからだ。


『何故僕が児童相談所に居たのか解らなかった。僕は人を殺してしまったようだ。母に暴力をふるっていた男性を。そう思い込んでいたのです』

でも彼は納得していなかった。
だから苦しんだのだ。




 『記憶はない……んです。でも、通報を受けて警察官がアパートに突入した時には血の付いたナイフを握っていたようです』

彼はそう言っていた。


きっと母を守るためにやったことだと思い込んだ。

そうでもしなけりゃ、乗り越えられなかったんだ。


その時彼は十三歳だった。
刑法では十四歳未満の犯行は罪に問われないんだ。

それで児童相談所扱いになったようだ。




 彼にはストーカーだと嘘をつき、自分が付け狙われているような印象を与えた。


だから彼は、母親が殺されかけたのを助けたのだと思い込んでしまったのだ。


『ギャーッ!!』
って叫んだ母親。

俺もこの人以外犯人は居ないと思った。


彼をあの鉄橋の下で殺そうとした母親しか……




 念のためにとDVD鑑定が行われた。
その結果、彼は二人の子供ではないことが証明された。


そしてあの誘拐事件が浮上したのだった。


迷子札に書かれていた名前はでたらめだった。
だが、生年月日は一緒だったのだ。


社長との結婚を目論んでいた彼女だからこそ、その日を覚えていたのだろう。
俺はそう思った。



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