アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 実は結婚式を挙げた教会で俺と綾は素晴らしい歌声を聴いた。
それは清水と彼の感謝の歌であり、いのりのうたでもあった。


アメイジング・グレイスを二人は唄っていたんだ。


『あ、確かこれ讃美歌だったね』
綾はそう言った。


でも俺はあの歌がが讃美歌だと知らなかったのだ。


『確か、テレビドラマの主題歌だったよね?』


『私もそう思っていたの。でも清水さんに教えてもらったの。彼が愛して止まない讃美歌なんだって』


『本当に良い曲だね』


『うん、そうだね。でもまさか水野先生も知らなかったなんて……』


『こら、綾……俺は孝之だと言ったろ』

俺はそう言いながら、二人の歌声に耳を傾けていた。




 『作詞したジョン・ニュートンって人は牧師になる前奴隷船の船長だったそうだけど船が難波しかけた時、必死に神に祈ったら助かったんだって。その後回心して……、イギリス議会に奴隷貿易の廃止を訴えたそうなの』


『だから清水も此処で祈ったのか』

俺は彼のことを案じていた清水を知らない。

あの娘は何時も笑顔だったんだ。だから気が付かなかったんだ。


俺は俺のことで手一杯だった。

綾とのことしか考えていなかった。
改めて清水に謝らなくてはいけないと思っていた。




 清水を蔑ろにしたつもりはないが、俺が許されるとしたらあのこと以外ない。

それは綾にも関係していた。


『綾。俺は綾に約束した、大学入試を受けられる資格を彼にも取らせてやりたいんだ。でももしかしたらそれだけでは済まなくなるかも知れない。それでもやってやりたいんだ』

俺がそう言ったら、綾は俺の唇を奪った。


『孝之さんじゃないと出来ないことよ。私からもよろしくお願い致します』

綾は涙を流しながらそう言った。


俺は、今度は自分から唇を重ねた。
清水と彼のアメイジング・グレイスが流れる中で……




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