アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 SL好きのおばさんの個展会場へ戻って来た時、彼は俺に言った。


『波瑠との約束を果たしたい』
と――

それは、働きながら勉強をして高卒の資格を取ることだった。

島には高校がないから、高卒程度の勉強を見てほしい。
そう言う話だった。


『アンタ、高校で教える資格持っているんだろう? だったらそれを生かしてみたらどうだい? 綾ちゃんだけじゃなく、この子の勉強も見てやってほしいよ』

おばさんはそう言いながら泣いていた。




 本当はその前に決意していたんだ。
二人のためではなく、あの島の人の役に立つ人間になろうと……


俺は今そのための場所を探している。

高校程度の試験を受けさせるだけの教室ではない。
生涯学習にも通じることだと思ったからだった。


彼には俺の意思を継いで、この島で教鞭を取ってほしいと思ったんだ。




 清水は、彼の誕生会が済んだら一旦家に戻って行った。

でもすぐに高校に退学届けを提出して戻って来た。


『やはり彼の傍にいたい』

それが答えだった。


『よし。俺が何とかしてみせる。御前達全員、俺が勉強を見ることにする。でも清水、スパルタで行くから覚悟をしとけよ』


『うん、覚悟する。彼と一緒ならどんなことだって我慢出来るもん。でも水野先生……綾ちゃんにも、勿論それで行ってね』


『いや、愛する妻にそれは出来ない。それに綾はこの島のお姫様なんだよ』

俺は堂々と言ってやった。


『だったらこれ、皆に見せびらかすよ』

そう言いながら、例のプライベートスナップが載った雑誌を差し出した。


『勿論綾ちゃんには見せたよ』

清水はそう言いながら不適な笑みを浮かべていた。


『清水には敵わないな』

俺はそう言いながら……

この島を担って行くだろう若い人達の力になろうと改めて誓っていた。


これからの人生。
きっと順風満帆ではないだろう。

嵐や日照りや雷もあるだろう。


でも大丈夫。
綾や清水や彼と一緒だったらどんな荒波もきっと乗り越えられる。


俺は勇気をもって漕ぎ始めた。
人生と言う大海原を……


まだまだ小さなボートたけど……




完。

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