アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 埼京線で大宮まで出て、高崎線に乗り換えて熊谷を目指した。

上野まで行って乗り換える方法もあったけど、何となく新宿から上野だと遠回りになるような気になって。




 熊谷駅に電車が着く。
プシューとドアが開く。


その途端に、異常な熱気を感じた。
ムッと暑くなる。


でも先ず鳥肌が立つ。
その後ジワジワ熱を帯びて来る。


(生き返った!)
そんな雰囲気だった。


これを言うと、みんな信じられないと言うような顔をする。

私は冷房の効いた場所から出た時の、あのムッとした大気が好きだったのだ。


でも……
熊谷は違っていた。
暑いよりも熱かった。
メチャクチャ熱かったのだ。




 JR熊谷駅の改札口を出ると、その前にバッグなどを並べてあるワゴンのお店があった。


その先にお目当てのCDショップがあるはずたった。


ふと、左側の通路の先に人集りが出来ていた。



 「あのぅー。これから何かあるのですか?」

思わず私は尋ねていた。
もしかしたらRD?
そんな気持ちがあったからだった。


(きっとRDが此処を通るのだ)

私は勝手にそんな想像をしていた。
RDがそんなに人気があるとは思えなかったけど。


「SLよ。蒸気機関車。パレオエキスプレスと言うのよ」

でも、予想外の答えが返ってきた。


「えっ、SL? すぐ来るのですか?」


「いや、二時に三峰口駅を出て、三時に上長瀞の鉄橋を渡って……それからだから」

どうやら熊谷駅に到着するSLの撮影のために来たようだ。


「あのう、此処にいる全員がSL待ちですか?」


「えっ、あ、ああ違うわよ。私だけよ」

その人は照れ草そうに笑った。




 時計を見ると、二時をだいぶ回っていた。


(取り合えずSLよりRDだなー。 きっと待っている内にイベントが終わっちゃう)


私はその人に軽く会釈をして、通路の先の駅ビルにあるCDショップを目指した。




 薬品や本や雑貨。
溢れかえる物の向こうにお目当ての同系列のCDショップはあるはずだった。


でも其処も時代の波に飲まれたのか、百円ショップに変わっていた。


でも……
母はめげない。


渋谷に居た時とは打って変わったように、イベント会場を目指すことにしたようだった。




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