アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 『次回のイベントは渋谷です』
お姉さんにそう言われながら貰ったチラシ。

見る度母の目が輝く。


二日後の渋谷のイベントに、母は父に内緒で出掛けることにした。

あの母の喜びようを見ていたら、どうしても行かせたい気持ちになってしまったのだった。


アリバイ作りを手伝うことになった。

私の用事で渋谷まで付いて来てもらいたいと父には話した。

父は渋々承知した。


父は母が音楽を聴くのが嫌いなようで、歌番組など見ていると。


「いい加減で卒業しろ!」
と常に言っていた。
そのくせ、自分はチャンネルを合わせて聴いている。

母が聴き出すとチャンネルを変えて


「いい加減で卒業しろ!」
と繰り返す。


父は本当に意地悪だった。
母が傷付き易い言葉をワザと使っている。

だから音楽イベントだなんて言えなかったのだ。


母の目の暗さは、父と結婚したことで始まったのではないだろうか?

私は、父のような無神経な人とは結婚したくないと改めて思った。




 父の帰宅は大抵十時を回った頃だった。
仕事のために遅くなる訳ではない。
パチンコに狂っていて、毎日帰りに寄ってくるからだった。


私達の誕生日もお構いなしで遊んでくる。


その上……
母が肺炎を起こし医師から入院を勧められた時。


『誰がご飯の支度をするんだ。いいから直ぐ帰って来い!』
と電話した時言われたらしい。
仕方なく交代した医師の説得も聞かず、母の入院を阻止したのだった。


自分勝手な父。

自由気ままに生きて、我が儘を貫く。
母のことなどお構いなしで、家には殆ど居なかった。




 「九時には帰れるからね」
母は朝、父にそう言った。


私は別行動を取って、ファッションアイテムを探しに同じ渋谷の若向けのお店に行っていた。


RDのイベントは六時より始まり七時には終わる予定だった。


場所はカラオケボックス内にあるイベント広場。


私達は七時半にハチ公前で待ち合わせしていた。


渋谷には大人向けのお店が多い。
だから私には早すぎるのだ。


私の名前は佐々木綾。
高校一年生。
十五歳。


やはりあのシンボルタワー的ファッションブランドは早かったのだ。




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