アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 私はふと、母の来るかも知れないスクランブル交差点を見た。
そこには大きなパネルを持って歩いていた母がいた。


「綾ちゃーん、これ見て!」
母は声を弾ませていた。


「このパネルが当たった時、幻ちゃんったら『熊谷にいた人だ』って言ってくれたの。私の事覚えていてくれたの」
母は興奮した声で経過を話していた。


「今日此処に来られて良かったよ。綾に感謝ー!!」


母の興奮した声は、渋谷駅前で待ち合わせしていた私の隣の人も注目させていた。


「アンタのお袋さんかい? 若いね……」

それでもその人は笑いを堪えているようだった。


オーデコロンの香りが大人って感じ。
でも、清々しい。


(何時かこんな素敵なカレが欲しいな)

私は母を待ちながら、その香りを堪能していた。




 私にとっては大問題は目の前のパネルだった。


(父が見つけたら怒るだろうな)

私はがっくりと肩を落とした。




 「いやー、良い物が当たりましたね」

やっと到着した母に向かって、何気にその人が言う。


母は満遍な笑みを浮かべ、その人に向けて会釈した。


「お、コッチの相方もご登場だ」

渋谷駅を時々見ていたその人。

女性と待ち合わせだとばかり思っていた私。


「叔父さーん此処だよ」

その一言にホッとした。


(えっ!?)

私は思いがけない感情に驚いていた。


(やだー。私本気みたい。二度と逢えない人なのに……)

私は母と渋谷駅に向かいながらもその人の後ろ姿を追っていた。


(ん? あの叔父さんって、何処かで会った気がするな)
私は何故かそう思った。




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