アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
帰りの電車の中で大事そうにパネルを抱える母。
私は少し恥ずかしくなり対面の座席に腰を降ろした。
「誰のパネル?」
母の横にいる少女が聞いている。
「あ、これ? RD」
母が答えた。
「あー、RD? おばさん青春してるね!」
あっけらかんと言う少女。母は一瞬戸惑っていた。
「そう、青春してるの」
母もあっけらかんと言う。
「RDの何処が好き?」
「うーん、メロディーかな? 幻ちゃんの曲って何か残るのよね」
「幻ちゃんだって。やっぱりおばさん青春してるわ 」
少女は笑い出した。
母も一緒に笑っていた。
駅からタクシーに乗って帰る事にした。大パネルを持ってバスには乗りたくはなかった。
噂でもされて父の耳にでも入ったらことだった。
苦労して出掛けたことが、新たな母への攻撃に変わるかも知れなかった。
玄関に電気が点いていた。
もしかしたら父?
そう思い、パネルを裏庭に隠した。
その予感が当たった。
父は私達が帰宅した時には既に家にいた。
「お前らが九時に帰って来るって言うから、早めに帰って来てやったのに」
意地悪な父の攻撃が始まろうとしていた。
父は何時だってそうだ。
誕生日でも、特別な記念日でも家には居ない。
必ず閉店までパチンコをしてくる。
でも私達が出掛けると解ると、早めに帰って来てネチネチ文句をつける。
最低最悪の人だった。
だからこの前の渋谷行きは、内緒の母娘デートだったのだ。
でも六時から始まるイベントだったので、許可をとったのだった。
何時かは母が肺炎を起こした時入院もさせなかったのに、自分はキチッと遊んできた。
家に帰って来てから熱のある母を叩き起こし、食事の支度をさせていた。
外で食べて来たってバチは当たらないのに、冷めた物を温めさせ意識朦朧とする母をこき使っていた。
私は、父を絶対に許さないと思った。
私の傍で眠っていた母の顔面向けて、角張った目覚まし時計を投げつけて起こしていたのを見てしまったからだった。
非情な男だった。
本当にイヤな男だった。
お陰で母は唇の脇を斬って出血した。
それを見ながら、平然としていた父が許せなかった。
許したくもなかったのだ。
私は少し恥ずかしくなり対面の座席に腰を降ろした。
「誰のパネル?」
母の横にいる少女が聞いている。
「あ、これ? RD」
母が答えた。
「あー、RD? おばさん青春してるね!」
あっけらかんと言う少女。母は一瞬戸惑っていた。
「そう、青春してるの」
母もあっけらかんと言う。
「RDの何処が好き?」
「うーん、メロディーかな? 幻ちゃんの曲って何か残るのよね」
「幻ちゃんだって。やっぱりおばさん青春してるわ 」
少女は笑い出した。
母も一緒に笑っていた。
駅からタクシーに乗って帰る事にした。大パネルを持ってバスには乗りたくはなかった。
噂でもされて父の耳にでも入ったらことだった。
苦労して出掛けたことが、新たな母への攻撃に変わるかも知れなかった。
玄関に電気が点いていた。
もしかしたら父?
そう思い、パネルを裏庭に隠した。
その予感が当たった。
父は私達が帰宅した時には既に家にいた。
「お前らが九時に帰って来るって言うから、早めに帰って来てやったのに」
意地悪な父の攻撃が始まろうとしていた。
父は何時だってそうだ。
誕生日でも、特別な記念日でも家には居ない。
必ず閉店までパチンコをしてくる。
でも私達が出掛けると解ると、早めに帰って来てネチネチ文句をつける。
最低最悪の人だった。
だからこの前の渋谷行きは、内緒の母娘デートだったのだ。
でも六時から始まるイベントだったので、許可をとったのだった。
何時かは母が肺炎を起こした時入院もさせなかったのに、自分はキチッと遊んできた。
家に帰って来てから熱のある母を叩き起こし、食事の支度をさせていた。
外で食べて来たってバチは当たらないのに、冷めた物を温めさせ意識朦朧とする母をこき使っていた。
私は、父を絶対に許さないと思った。
私の傍で眠っていた母の顔面向けて、角張った目覚まし時計を投げつけて起こしていたのを見てしまったからだった。
非情な男だった。
本当にイヤな男だった。
お陰で母は唇の脇を斬って出血した。
それを見ながら、平然としていた父が許せなかった。
許したくもなかったのだ。