アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 私の父親が誰なのか、母に聞けるはずがない。

父もきっとそうだったんだろう。

悩んで、悩んだその果てに疑惑だけが大きくなる。

だからいつも冷たい言葉になったんだろう。


『お前は公衆便所だから』
父が母に言った、一番汚い暴言を突然思い出だした。

あの言葉が、全てを物語っているのではないのだろうか?

母は軽く受け流していたけれど、私は引っ掛った。

母を見下した言動。

"公衆便所"にどんな意味があるのか知らない。

でも……
決して良い意味ではないだろう。

きっと精一杯の皮肉が言わした言葉だったのだろう。




 それ程父は母を卑下していた。

声を荒げることもしばしばあった。

それも母には何の落ち度もない時に。
私の学校の事で相談すると


『うるさい黙ってろ!』

ご近所トラブルの相談も


『うるさい黙ってろ!』

みんなそれで片付ける。


まともに取り合ってもくれないのだ。




 母を虐めて何も言えないようにしておいて、家政婦のように濃き使う。


今日のような日を利用して、実家に逃げ場を作らない工夫をする。


きっとそれが、今日遅く出発した理由なのかも知れないと思った。




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