アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 私がやっと落ち着きを取り戻して安心したのか、母は意を決し父の傍に行った。


『八時から綾と約束していたでしょう? 見たい物があったら見ていいって。それが何故なの?』
母がそう言った途端だった。


『うるさい黙ってろ!』
得意な台詞が飛び出す。

その言葉で、私は又しゃくりあげる。

その日はそれの繰り返し。
私は夜中まで泣いていた。




 一度叩いたことで、勢いが付いたのか。
その後も何度となく虐待は続いた。

あれは、母に対する嫌がらせだったのだろうか?

私はその度言った。


『お願い、殺さないで!!』
と――。


その頃の私には、恐怖の存在だった父から身を守る手段はそれ以外なかった。

今でも私は父が拳を振り上げる度に体が萎縮する。

それ程、体に染み付いている父の暴力。
トラウマ。

でもそれは母にもあった。


母が何故、父から暴力を受けている私を助けてくれなかったのか?

その理由を今日初めて知った。

母は、プリン事件の時の祖父の暴力を思い出して、動けなくなっていたのだ。


母の目を暗くさせたのが祖父なら、その目を更に暗くさせたのが父だ。

私は亡くなるまで叔母の悪巧みを知らないでいた祖父が、一番罪深いと感じていた。




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