アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 あの後父は外出が多くなった。
パチンコ狂に変貌して、閉店までいるようになった。

だからRDの渋谷イベントの帰り、玄関に明かりを見て、嫌な予感があったのだ。




 それと同じようなことが、遊園地に遊びに行た時にもあった。
やはり早めに帰って来て、愚痴を言って困らせた。


『一緒に行こう』
と言えば……


『お前らだけで行け』
と言う。

そのくせ、そんな日は必ず私達より早く帰って来て困らせる。


そして……
ネチネチと母に因縁を付けては遊ぶ。
父は最低最悪な男だったのだ。


法事のようなことでもない限り、一緒のお出掛けなんて有り得なかった。




 祖父が亡くなる前にしみじみ言ったことがある。


『俺の両親は死んだから、お前の家だけだよな』
と――。


『だから明日の母の日は、顔を見せに行ってこい』
と――。




 母は嬉し泣きしながら電話した。


でも翌日。
それは思わぬ竹篦返しになっていた。




朝起きて来た父は、母に尋ねた。
何時行くのかと。


『お父さんが行ったら行くよ』
母は言った。

父は日曜日は必ず、開店前にパチンコへ行く。

だから、そう言ったのだった。


ところが、その日に限って早めに車にエンジンを掛けた。


母が出発しようとしたら、出口を車が塞いでいた。


父は出発したのではなく、母のバイクが出るのを邪魔しただけだった。

バイクが一台、やっと通り抜けられる車との隙間。

それを潰すように車を移動させたのだ。




 そうこうしているうちに、車を洗いワックス掛けまで始めた。


『お前何時行くんだ』
と聞く。


『お父さんが出掛けてからよ』

そう言うと……

今度は剪定鋏で庭の木を切り出した。



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