アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 それでも飽き足らなくて食事の支度をさせる。

母は遂にキレた。

出刃包丁を持ち、新聞のチラシの裏の白い紙に父の名前を書いて、何度も何度も刺していた。


目にはいっぱい涙を貯めて、お母さんお母さんと呼びながら……


父はその後馬鹿にしたようにあざ笑った。


そして、やっと出掛けた。


でも時間は三時だった。


父は母をなじるためだけに、五時間以上いたぶり続けたのだった。




 それもこれもみんな母を虐めて、ついでに私を痛め付けるためだった。

父はそんなに心の狭い人間だったんだ。


母の目が暗くなるはずだ。
三面鏡の前で泣くはずだ。


『アナタは良くやっているよ』
母は時々、三面鏡に写る自分に向かって言っている。


(お母さん!)

私は何時の間にか、母の実家の三面鏡の前で泣いていた。


後から後から涙が溢れる出してくる。

私はこの世に産まれてきたことを生まれて初めて呪った。


(私さえ、産まれて来なければ……)


そうだ。
父も母も苦しむことはなかった。


神様。
助けてください。
仄暗い陰ったような母の目を……
父と母を救う道を教えてください。


私は心の中にいる私だけの神に祈った。


私は小さい時から思っていた。
神様は心の中にいて、何時も見守ってくれていると。


それは、誰に教えてもらった訳でもない。
自らが考え出した結果だったのだ。



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