アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「伯母さん。母の初恋なんて聞いてますか?」

私は遂に核心の部分の質問を始めていた。

聞いてはならないことだと解っている。でも聞かずにいられなかったのだ。


「初恋? 初恋は知らないけど、普通の恋なら」
突然の唐突な質問に、伯母は少しためらって、それでも答えてくれた。


「勤めていた会社の人に好きだと言われ、付き合ったことがあったけど。妹には合わなかったみたい」


「それ以外は?」


「それ以外? そうね確かもう一人。いや余り覚えてないわ。何しろ、お見合いして直ぐに結婚しちゃったからね」


「直ぐに結婚? 何故ですか?」
私は矢継ぎ早に質問した。


「うーん、覚えてない。何故だったんだろ?」
伯母は暫く考えていた。


それでも答えは出なかった。


「家に入ってお母さんに聞こう」
伯母は玄関のドアを開けた。




 祖母の話によると、お見合いして直ぐに結婚したのは、相手側の仲人の気まぐれだったらしい。

理由は……


『自分がお見合いさせた人は全員結婚しているから』だった。


(相手側と言うことは? えっー!? お父さんの頼んだ仲人さん? えっーー!? だったら何で? 母には何も結婚を早める必要はないはずだ。一体何でー? 父は母を疑うような態度を取ったのだろう?)


「全くびっくりしたよ。お見合いして一ヶ月か二ヶ月で結婚なんて」


「あっ、そうそう思い出した。わりかた直ぐに綾ちゃんが出来たんだった。ハネムーンベイビーだって恵言っていたわ」


「ハネムーンベイビー? ってことは、私は直ぐに生まれたの?」


「そうだよ。あれっ、恵から聞いてない??」

「違うよ、恵は。それは妹。妹の方が早くに結婚する相手がいたのよ。だからお父さん恵の結婚話を承諾したのかも知れないわね」




 叔母さん……

プリン事件で母を祖父に殴らせた人。

その叔母を好きな人と結婚させるために、母に父を押し付けた祖父。


やはり母の哀しみな此処にあったのだろうか?




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