アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 父は若い頃、銀座でバーテンをしていたそうだ。

それは以前聞いたことがあった。
ある有名なピアニストがテレビで演奏していた時。


『この人が生演奏をしていたバーで働いていたんだ』
そんなことを言っていた。


だから、母の田舎料理にケチばかり付けていたらしい。

そのことでも、母は真剣に離婚を考えていたようだった。


『手料理を作れ』
そう言われて温かい煮物を出したら、キレた父。


『テメエはこんなモンしか作れねえんか!!』

そう言いながら母をいたぶった。


『何が一流料亭の味だ!!』
そうも言われたらしい。


良家のお嬢様の花嫁修行番組が紹介されて、仲人が母をもそうだと思い込んだようだ。

その頃、超一流の料亭での料理教室が流行っているとテレビで放映されたらしいのだ。

でも田舎にそんな所はあるはずがなかったのだ。
母が通ったのは地元公民館の料理教室だったのだ。

結果的に嘘を言ったことになる。
でも母が悪い訳ではない。


それでも約一カ月近く、母の料理を払い除けていたようだ。


「テメエの料理よりよっぽどましだ」

何を作っても食べてくれない父は、そう言いながら自分で買ってきた弁当に舌鼓を打っていたそうだ。




 新婚二ヶ月目で母は遂に離婚を決意して家族に相談した。


『子供がいなくて良かったね』
そう言うことで離婚が決まった。

でも叔母から電話があり、一変する。
きっと自分の結婚を母の離婚で邪魔させたくなかったのだ。

祖母が父に母の料理を食べてくれるように懇願したようだ。

父に……
まるで土下座でもするかのように頭を下げた祖母。


それをやり玉に使った叔母。


『お母さんあんなことさせていいのか!? アンタが我慢すれば良いだけの話だ!!』
そう言われて離婚出来なくなった母。

母の苦しみは其処から始まったのだった。


そう……
又しても原因を作ったのは叔母だったのだ。




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