アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 結局母は離婚出来ずにいた。
そんな時に私を身籠ったことを知ったそうだ。
だから母は、どんなに別れたくても我慢するしか無くなってしまったのだった。


「母に好きな人は居なかったのでしょうか?」

私は核心に迫ろうと、お茶を飲みながら話出した。


家内工場。

家族だけでバッグを作っている実家。

母もずっと手伝わされたと聞いていた。

今は三時休みだった。


「そう言えば、一人居たわね。年下の人を好きになって」


「私は結婚させてやりたかったんだ。お父さんもその気でいたのに、急に別れてきて」


「えっ急に?」


「恵は何も言わずただ耐えていたから、可哀相で可哀相で」


「でも、どうして別れたのかな? 私がどんなに言っても、その人のことを信じていたのに」




 やはり母には恋人がいた。

それも伯母がどんなに反対しても、愛し抜くまでに。


その人は軽自動車だった。

それは良い。

経済的にも。

でもステンドグラス風のシールを貼っていて、やはり若いと感じたようだった。


ことある毎に反対したと言う伯母。
でも聞く耳を持たなかった母。


恋に狂う母の姿は想像したくはない。


でも、今の私がそうのように……

母もその胸を焦がしたのだろう。

切なくなる位の愛の炎で。


水野先生と出逢って一週間が経とうとしていた。


別れが……
水野先生が研修を終える別れの日が迫っていた。

後ホンの十日余りで……




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