アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「そう言えば綾ちゃんが産まれる前大変だったんだから」


「えっ何で?」

私の言葉を聞き、祖母は不思議そうに私の顔を見た。


「恵に聞かなかったのかい。点滴の話」


「あれっ!?」
祖母の言葉が、母との会話を思い出させた。


「そう言えば、何か聞いたことある。なかなか産まれなくて大変だった。って言っていたような」


「何しろ点滴何本も打っても、一向に産気づかないから。最後は帝王切開だったんよ」


「帝王切開は普通分娩より楽だったけど、寝ていたらお尻に床擦れが出来たとか」


「そうよ。恵が痛い痛いって言うから見てみたら、瘡蓋があって、取れたら蒙古斑みたいになっていたよ」
祖母が言った。


「未だにその跡があって、時々私に確認させては懐かしがっています」


「へぇー、まだ治らないんだ」
伯母がお茶をすすりながら言った。




 「恵は気にしていたんだよ。アンタのお父さんが出掛ける前に言ったことをね」


「えっ、何て言ったのですか?」


「恵ちゃん、気にしないでね。実は……」

伯母は祖母の顔を窺いつつ、耳打ちをした。


「アンタのお父さんは恵にこう言ったんだって『俺の子は男だけだ。もし女の子なんか産んだら、帰って来なくてもいいからな』ってね」


「えっ!?」

私は思わず声を上げた。


「あ、ごめん。今の話、忘れて……」

伯母の顔が引き吊った。


「恵は本当は話したくなかったんだと思うよ。でも何があるか判らないから私には打ち明けてくれたの。でも……迎えに来てくれた。私はあの時ホッとしたの」

伯母の声がフェードアウトする。泣いているのだと解った。




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