アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 「よーい、ドンっ!!」
そんな掛け声から徒競走が始まった。

第一種目はキャタピラー競争。
キャタピラー?
尺取虫の事だ。

でも、此処では重機ののキャタピラーを意味する。

戦車のタイヤのようなデッカい輪をダンボールで作り中に入ってハイハイで進むのだ。

ダンボールはとても虫が着きやすいために、これだけら毎年造ることになる。


バザーで使った大きめな物の再利用だ。


接着面を開き、少しずつ折り曲げてから二つ繋げる。
これも技術が要る。
ピッタリ合わせないと、出来上がった人力移動物体が大暴れするのだ。

前が見えないこの車輪。
とんでもない方向に反れることもある。
それも面白いのだが……


だから自己責任……
いえ、クラスの責任って言う事で……
毎年自分達の手で作らされていたのだった。




 デカパン競争。
玉転がし。
達磨競争。

一番人気はやはりパン食い競争。
ここぞとばかりにおちょぼ口が口裂け女になる。


「よーし。一番先にゴールするぞ」
生徒達に混ざり、並んでいた水野先生が言った。


「先生ダメだよ。か弱い女性を虐めたら」
清水さんが釘を刺す。


(えっ!)

一瞬耳を疑った。

まさか清水さんがこんなに親しそうにするなんて……

私は慌てて周りを見た。


みんなの目が清水さんを睨んでいるように思えた。

背筋がゾクッとする。
女の嫉妬は恐ろしい。

私はゆっくり清水さんから離れた。




< 70 / 179 >

この作品をシェア

pagetop