アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 ところが、清水さんが私の相手を探して来てくれた。

それは、何故か水野先生だった。


私はみんなから睨まれることになった。

みんなのアイドルになった水野先生。

その親衛隊の皆様に……


私は対策を講じようとやっきになっていた。

そこで嬉しいクセに、困り顔をしてアピールした。


その上、ダンボールの衣装は、みんなの笑いを誘う。

私は仕方なくお道化てみることにした。


「まるでサンドイッチマンだな」
水野先生が言った。


(仕方ないよ)

私は水野先生の傍で、震えていた。
物凄く嬉しいのに怖い。
恐過ぎてマトモに顔を上げられなかった。




 後もう少しで先生は学園を去る。

結局思い出なんて残せないんだ。


そう思い凹んでいたら……

思いもかけない方向へ。


でもサンドイッチウーマン状態のままでは何も出来ない。

出来ないよー。


先輩達が怖くて何も出来ないよ。

私は……
辛い待ち時間に、ただ耐えていた。




 入場門で二人で並んでいただけで、好奇の目を注がれる。

私は冷や汗ものだった。


その時。
清水さんが走ってきた。


「綾ちゃーん。忘れ物」

そう言って頬にチークを入れた。


「ん!? 綾ちゃーん? あれっ、どっかで聞いたな」

水野先生は首を傾げた。


でも……
私は清水さんに疑惑の目を向けていた。


清水さんはさっき確かに走ってきた。


(って言うことは……、怪我はしてない!?)

遣られたと思った。


清水さんは、サンドイッチウーマンの衣装を着たくなかったのだ。


でも、私は怒りより、微笑んだ。


水野先生が傍に居る。
それだけで……
嬉しかったから。




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