アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 でも反対したのは母の両親だけではなかった。
父の親戚も大反対だったのだ。


実は父には許嫁がいたのだ。
その人は何処の誰かも解らない、本当に日本に存在するかも解らない人物だったのだ。


そんな雲を掴むような話を父は子供の頃から何百回も聞かされてきたのだった。
だから嫌気が差したのかも知れない。

父は愛する人と添い遂げたくなったようだ。




 父は母の両親を説得するために婿養子になることを約束した。
そして島に行ってからこっそり式を挙げてしまったのだ。


それ以外に二人が一緒になる道はなかったのだ。


だから是が非でも結婚を阻止しようとしていた親戚達を激怒させてしまったのだった。


父は由緒正しい家柄の次男坊で、産まれた時から親戚連中にがんじがらめにされてきたのだった。
ことの発端は曾祖父の遺言だった。


父は行方不明になっているとされたその許嫁を探し出して、結婚をして離島で生活を共にしなければいけなかったのだ。


それが曾祖父の遺言だった。


大学を卒業した父は離島で教師になる道を選んだ。
その下見に出掛ける振りをして、挙式してしまったのだった。


そんな父に親戚連中は容赦ない口撃を浴びせたのだった。




 島で生活すること。
それは離島出身の祖父の願望だった。


祖父や其処の人々は先祖代々の密命を負っていたのだ。


私には本当は何だか解らないけど、きっと行方不明になっている人物のことだと思っているのだ。


それがあの島の抱えた事情だと言うことは理解している。


私が今まで暮らして来たのは平家の落人伝説の島だったのだ。




 父から聞いた落人伝説の中で私が好きなのは、那須与一の弟大八郎と鶴富姫の伝承だ。


山の中に分け入って暮らし始めた残党の討伐命令を受けてたどり着いた大八郎は、穏やかに暮らす人々に感銘した。

そして全員を討ち果した報告した。
その後、その地に移り住んだ大八郎は地域発展に寄与した。

源氏と平家の垣根を越えて、鶴富姫と出会い結婚した大八郎に幕府からの帰還命令が出る。

大八郎の子供を身籠っていた鶴富姫は女児を産んでその地で暮らしたと言う。




 父は、源氏も平家もない。
愛していれば、苦難さえも乗り越えられる。
そう言いたかったのだ。
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