アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 十一時四十時七分。
三峰口行きの普通電車が出発した。

座席は青だった。

一番端の座席に腰を下ろした。

此処はシルバーシートとそうでないのと二通りある。

勿論、何も書かれていない方に座った。

でも其処は……
開閉ドアが車窓を隠してしまうために、余り景色は見えそうもなかった。


「お母さん、此処だと景色見えにくいね」
私は言った。


「寝るには良いけどね」
母はそう言いながら笑っていた。


私達は思い切って、中よりの座席に移動した。


「上長瀞の先にね、鉄橋があるの。それが楽しみだったの。此処からなら見えるね」
母は嬉しそうに言った。


「あれ何かな?」
灰色の建物の傍に黒い丸い線路があった。


「転車場かな?」


「てんしゃじょう?」


「ほら、SLの方向転換する線路よ。きっと此処はSLの保管庫ね」


「へえー。此処から出て行くのか?」

私はその倉庫をじっと見ていた。




 その鉄橋が近付く。
母は体を進行方向に向けて斜めに座った。


間もなく、鉄橋から荒川が見えた。
母はずっと目で追っていた。




 目的地に近くなると、乗客は極端に少なくなる。

私と母はたわいもない話をしながら、移りゆく景色を眺めていた。


秋の景色と言うにはまだほど遠い。
でも確実に近付いている気配を感じた。


そう水野先生との別れのも着実に迫っていた。




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