アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 『目? 母の目ですか?』
私はその時、突然に渋谷であった老人との会話を思い出した。


『そうだ。私は初めと見た。あんな哀しそうな目をした人に』



『母は父親を亡くしたばかりなんです。哀しそうな目はそのためだと思いますが』


『いいや、あの目はそんな生易しいものではない。そうだ娘さん、あんたお母さんの瞳の奥を覗いて見たことがあるかい?』
私は確か首を振った。


『一度覗いてごらんなさい。きっと何かが見つかるから』

そうだ……
全ては此処から始まったのだった。
自分探しの旅が……




 自分の子供は絶対に男だと決めていた父。
だから女の私を軽蔑したのか?
暴力を振るったのか?

私は益々父を許せなくなっていた。




 「あれっ、貴女は……」
車内で声をかけられた。


「あっ、この前上の通路にいた人?」


その人は上長瀞手前の鉄橋を撮影しようとして異動していたのだった。


「奇遇だね。又母娘旅かい? 本当に仲いいねあんたら」


「ところでお姉さんは又SL撮影ですか?」


「おばさんでいいよ。何時か写真展を開きたくてね。それであちこち撮りまくっている訳さ。あっ、ごめんなさい」


……ブォー!!

その時、SLの警笛が鳴り響いた。


おばさんは鉄橋の手前から連写でシャッターを切った。


「この橋の上は連写が一番なの」

そう言いながら、以前撮影したデジカメの映像を見せてくれた。




 「あれっ、川の傍で赤い何かが動いてますね」

私の発言で、おばさんはその一枚を拡大した。


「本当赤い服の誰かが動いているね。でも、何をしているのか解らないな」

おばさんはそう言いながらデジカメを締まった。




 「そうそうまだ気が早いけど、熊谷駅の近くのお店で来年写真展開くつもりだから名前教えてちょうだい」

その言葉を受けて、私は彼女のメモ帳に住所氏名電話番号を記入した。




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