アイ・哀しみのルーツ【いのりのうた・十五歳の系図】
 目を覚ますと、白衣を着た人と目が合った。


「気分はどうだ?」

まだ意識朦朧とする中、この人はお医者さんだと直感した。

どうやら僕はリンチの最中に気絶したようだ。


「さっきはだいぶ魘されていたようだな。悪い夢でも見たか? どうだ、話してみないか。少しは楽になるかも知れないからね」

その言葉に頷いた。


「確か君はまだ、父親殺しも納得していないとか聞いたけど」


「えっ!? あの人は父親だったんですか?」


「何だ知らなかったのか? 確かにそう聞いたけどな」


「僕はただ母のストーカーだとしか知りませんが」


「ストーカー?」


「母は、何時か殺されると言いながら震えていました」


「だから思い余って、君が殺してしまった訳か?」


「そうだと思います。でも僕にはその記憶が無いんです。母の悲鳴で目を覚ますと、其処にストーカーが死んでいました」

僕はあの日見たままの光景を担当者に伝えた。




 僕は後日、催眠療法を受けてみることになった。

精神的に病んでいると判断されたようだ。




 そんな時、警察関係者に連絡があったようだ。
僕は本当は罪を犯していないことが証明出来たらしかった。


と言っても、母親殺しの方だけらしいけど。


何処かのSL好きのおばさんが、偶然鉄橋の上から撮影していたのだ。


僕が母親に殺されかけていた現場を……




 SLの車内から撮影したらしい。

上長瀞と親鼻と言う駅の間に鉄橋があって、おばさんは何時も連写で撮るそうだ。


水に顔を押し付けられた僕が川の中の石を拾い、母の頭を叩いた場面が其処にあったそうだ。


初めは気付かなかったそうだ。
でも拡大したら……


確かに僕は母を殺してしまっていた。
でもそれは正当防衛だったのだ。




 僕は夢の中の場面を思い出していた。


苦しい。
息が苦しい。


あれはきっと、荒川に頭を押し付けられていたからか?


その荒川に手を延ばして拾った石。
それに付着していた血痕。


全てが一致した。


何処の誰かは判らないけど、感謝の涙で目の前が歪んでいた。


「良かったな。君はきっと放免されるはずだ。でも、その前に医療少年院で心のケアをしてみないか?」


「医療少年院?」


確か少年院は目的別に四つあると聞いていた。

でも医療少年院は、特別な場所だと思っていた。
僕は其処でどうなってしまうのか心配だった。



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