ビター・スウィート



「内海さん!」



廊下を一人歩いていると、バタバタとした音とともに後ろからかけつけてきたのは、永井。

先程俺が返した書類にすぐ名前を書いてきたのだろう。短い足で必死に走ってくる。



「名前書きました!お願いします!」

「あぁ。わかったから社内を走るな」



『商品部 永井ちとせ』と相変わらず丸っこい字で書かれた書類を受け取る俺に、永井はふう、と一つ息を吐く。



なにをそんなにバタバタと……。

落ち着きがなくて、やっぱり子供だ。年齢は対して変わらないのに広瀬が子供扱いをしてしまうのも分かる気がする。



「あ、ちーせんぱぁい。ちょうど良かったぁ、頼み事してもいいですかぁ〜」



するとそこに通りがかった、永井と仲のいい後輩……阿形は、しまりのない言い方で永井を呼び止めた。



「菜穂ちゃん、なに?」

「資料室から去年までのPOPまとめたファイル持ってきてほしいんですけどぉ」



……どうでもいいが、どうしてこいつはこうも化粧が濃いんだ?

睫毛がバッサバサしているぞ。唇もテカテカですごいことになっているぞ。これが可愛いのか?女っていうのはやっぱりわからない。



ついまじまじと見てしまう俺に、自分に対して向けられる視線がいいものではないのだと気付いたのだろう、阿形はこちらをじろ、と見てくる。


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