ビター・スウィート
「わっ……」
突然のことに驚いたのか、その手は写真を手放し、一枚はらりと床に落ちた。
ぐい、と掴んだその手首は、折れてしまいそうなほど細い。
「内海、さん……?」
こちらを見上げる瞳は、黒く大きく、子供のような高い体温が、俺の冷たい手にじんわりと滲むのを感じた。
「あ、あの、内海さん?なんですか?いきなり」
「……別に。なんとなく」
「え!?なんとなくで後輩の腕をいきなり掴むんですか!?」
俺の下手くそな誤魔化し方に、突っ込みたくなる気持ちもわかる。
けれど、どうしてその腕を掴んだか、なんて俺が知りたいくらいだ。
パッとその手を離すと、永井は安心したように落ちた写真を拾った。
「お前あれだろ、部屋の掃除中にあれこれ見つけて結局掃除にならないタイプ」
「うっ……」
「さっさと探すぞ。でもって仕事に戻る」
そしてまた脚立に乗ると、俺はガサガサと棚を漁る。余計なことは考えず、ファイルを見つけることだけを目標にして。
……なにしてるんだよ、俺。
永井は広瀬が好きなんだ。だから、広瀬のことになると表情が明るくなって当たり前だ。
なのに、その視線をこちらに向けようと気を引いたりして。
あーもう、わかんねー……。
ほら、また考え出すと止まらない。答えの出ない疑問が、頭の中を埋め尽くしてしまう。