ビター・スウィート
『発車致します、閉まるドアにご注意ください』
アナウンスとともにドアが閉まり、電車はガタン、ゴトンと走り出す。
程よく揺れる電車に、今週一週間分の疲れ。それらが合わさり、すぐに瞼は重くなる。
……まずい、これは確実に寝るな。
うとうととし始めた自分に、ならばと永井へ目を向ける。
「……永井、お前どこで降りる?」
「え?上野ですけど」
「そうか、ならいい。俺は神田だ。着いたら起こせ」
「へ?あっ、はい」
ちょうど良く永井の降りる駅のほうが後だったらしく、俺は永井にそう任せると腕を組み俯き一眠りを始める。
永井に任せるのは少し不安だが……元々車や電車に乗るとすぐ眠くなるタイプの俺は、起きていられそうにない。
そういえば、この前の出張のときもこうやって永井の隣で寝てしまった気がする。
ガタン、と電車の揺れに身を任せ、俺は隣のその肩に頭を乗せた。
あー、まずい。永井に寄りかかっているな、俺。
けど、眠くてこのまま寄りかかっていたい気持ちと、どうもこの肩が居心地がいい。
少し位置は低いけれど、体温が高く、ほのかに石鹸の匂いが香る。香水も少しだけつけているのか、どこか甘い匂いもする。
その匂いに、誘われるように。