ビター・スウィート
停まった電車から降り、ホームへと立つ俺の前を永井は歩く。
ところがその瞬間、永井は躓き前のめりに転びかけた。
「わっ!」
「なっ!」
咄嗟に腕を伸ばし、その体を受け止める。腕の中に収まるのは、細く小さな体の感触。
「……っと、セーフ」
「す、すみません……」
「足元気をつけろ。バカ」
抱きとめた身体に、一気に近付く距離。それらが彼女を感じさせ、ドキ、と心を鳴らした。
するとみるみるうちに、永井の顔も真っ赤になっていく。
「わ……悪い」
「い、いえ……ありがとう、ございます」
予想外のその反応に、思わず手を離し永井から顔を背けた。
なんだよ、その反応。そんな顔をされたら、ほのかな期待に自惚れが煽られる。
その反応は、その目がこちらを向いている証。それは、今だけでも。
電車を待つホームには、ガタンゴトンと鳴る電車の音。隣に立ち、顔を背けながら、頬を赤くする二人がいた。