ビター・スウィート
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん。あ、ならうちでご飯にしようか。ちーのためにご馳走作るよ」
「って、家ですか!?いいんですか!?」
「え?うん、全然いいよ?」
い、家!?広瀬先輩の!?
その言葉の意味を深くは考えていないのだろう、問い返す私に彼はきょとんと首を傾げる。
「ちなみにちー、明日の夜は予定は?」
「明日はなにも……」
「じゃあ明日にしようか。時間とか俺の住所はまた追ってメールしておくから」
そして約束をとりつけると、「じゃあ」とその場を後にした。
ひ、広瀬先輩の家で……ごはん。
年頃の男女が、ふたりきりで……となればさすがに、なにが起きてもおかしくはないわけで……!
「ど、どうしよう菜穂ちゃん……!!」
広瀬先輩が去った後のフロアで、私は一部始終を黙って見ていた菜穂ちゃんに縋るように駆け寄った。
「ちー先輩、こういう時は勝負下着ですよぉ」
「ってそれはないよ!?」
ピンク色のグロスのついた唇でにやりと笑う菜穂ちゃんにつっこむものの、でも、家ってことは……なんて期待がないわけでもないことも、事実。
思えば広瀬先輩の家に行くなんて、初めてだ。どんな家に住んでいるんだろう、ご馳走ってもしかして手作り?楽しみだなぁ。
次から次へと広がる想像に、ふふっと笑みがこぼれた。