ビター・スウィート



「き……昨日は、いきなり休んでごめんね」

「本当ですよぉ、そのせいで急ぎの仕事ぜーんぶこっちに来たんですからぁ」

「す、すみません……!」



小さくなって謝る私に、菜穂ちゃんは赤いラメのマニキュアが塗られた爪をやすりで整えながら、唇を尖らせる。



「けど、そんな顔見せられたら怒れないですよぉ。よっぽど何かあったんでしょう?話くらいは聞いてあげますよぉ」

「菜穂ちゃん……」

「ま、聞くだけはタダですからねぇ」



いつものような、少し怠そうな興味のなさそうな言い方。けれど、気にかけてそう言ってくれているのだとわかるから。

制服である紺色のスカートをきゅ、と握り私は口を開いた。



「……広瀬先輩、結婚するんだって」

「はぁ!?結婚!?」

「うん。なんでも二年くらい付き合ってる彼女らしくて」



腫れた目元を細めてへへ、と笑う私に、菜穂ちゃんは驚きを隠せずにその眉間にシワを寄せる。



「それは、なんていうか……ショック、ですよねぇ」

「うん、まぁ……でもね、内海さんそのこと知ってたんだって」

「まぁ、あれだけ仲いい男同士なら、そういう話もするんじゃないですかぁ」

「それは分かるけどさ。なんか……なんで黙ってたのかなって、私のこと笑ってたのかなって、そう思ったら止まらなくて」



止まらない気持ちを、子供のようにぶつけた自分。そんな私に、普通に接しようとしてくれていたのに。



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