ビター・スウィート
けれど、現実はそう上手く行くわけもなく。
「あ、おい永井……」
「お、お疲れ様です!」
「あっ!?おいこらっ……」
同じ社内の同じ部署の上司、なのだから当然内海さんと顔を合わせることも多い。けれど、その度こうして逃げてしまう自分がいて。
行きあっては避け、声をかけられては逃げ……繰り返し、一週間。
「つ、疲れる……」
一人の人を避けるのって、こんなに疲れるんだ……。
私は一人、ぐったりと残業に追われながら社内の廊下を歩いていた。
定時をとっくに過ぎ、残っている人は皆残業中でフロアにこもっているためか、廊下にひと気はない。
私も早く資料室から資料を持って来て、残業終わらせよう……。
そう下のフロアへ向かおうと階段を下り出す。
「おい、永井」
「えっ!?あっ……!」
すると、上の階から下ってきたのはあまり合わせたくない顔……内海さん。
私が意識して避けていることに気付いているのだろう、その顔はいつも以上に不機嫌だ。