ビター・スウィート



「わ、私急ぎますので!!」

「あっ!てめっ……」



話をしなきゃ、逃げちゃだめだ、そう思うのに、足はまたつい走り出してしまう。



「っ……待てぇぇぇ永井ぃぃぃーーー!!!」

「えぇ!?」



って、追いかけてきた!?

逃げられたことがよほど頭にきたのか、階段を駆け下りる私に、後ろから内海さんは鬼のような顔で追いかけてくる。



こ、こわい……!

捕まったら私、ボッコボコにされるんじゃ……!?



尚更止まれないと思うものの、見た目通り足の遅い私と、速い内海さん。二人の距離はあっという間に縮まり……。

通さない、とでもいうようにその腕はバンッ!と目の前で壁につく。



「……やっと捕まえたぞ……このガキ……」

「ひっ、ひぃ!ごめんなさいすみません殴らないでください〜!!」

「殴らねーよ!!」



走るうちにやってきたのは、会議室や資料室などのある、普段からあまりひと気のないフロア。

そこの廊下の一番端で、彼は私の背後の壁に両腕をつき私を逃がさぬように挟み込む。



「ここ最近人の顔見る度にビビって逃げやがって……あぁ?なんだ?お前には俺の顔は悪魔にでも見えてるのか?」

「内海さんが悪魔なのはいつものことですもんー!」

「おい、今何つったコラ」



左手を壁についたまま、右手で私の頬をつねる。

痛いけど、怖いけど、ふと見上げれば目の前には変わらぬその顔がある。散々逃げてしまっていたのに、こうして改めて向き合うと、久しぶりのこの距離に少し安心してしまう自分もいた。


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