ビター・スウィート
「……お前は、無駄な想いなんてないって言っていたが、今この状況でもそう思えるか?」
「え……?」
『叶わなくたって、無駄じゃない』
あの日、花音さんの話をしてくれた彼に私が伝えた気持ち。
『あの時の気持ちを思い出すとやっぱり、叶わない恋なんてもうしたくねーなって、思うよ』
そう、だね。
胸が痛くて、苦しいよ。叶わない恋なんてしたくない、無難で楽しい恋がしたい。
だけど、それでも想った時間は無駄じゃない。
微かでも、確かに彼へなにかが伝わっているはず。そう信じたいから。
「……はい、」
しっかりと頷いた私に、彼は少し驚いた顔をしてから笑って、そのままぎゅっと体を抱き締めた。
痛いくらい、力を込める腕。だけど、“私のため”と想ってくれるその心が伝わってきて、あたたかい。
その優しさが嬉しくて、こぼれてしまう涙。涙で化粧が滲んでしまうとか、彼の前で泣くのは何度目だろうとか、そんなことを考えながらも、内海さんの腕に甘える。
抱き締める彼から、慰めたりするような言葉はない。だけど、その存在ひとつで充分だと思えた。
傷付いても、落ち込んでも、その優しさだけで。