ビター・スウィート
「寝不足ですか?」
「あー、昨日誰かがスーツに鼻水つけやがったからな。綺麗にしてたんだよ」
「はっ鼻水なんてつけてませんもん!」
「ふふん」とからかうように笑うところが、また意地悪で嫌な男だと思う。
けど……どうしてこうも、この人は普通なの!?
異性を抱き締めるなんて、彼には大したことじゃないんだろうか。女扱いはこれまで度々してくれていたけど……でも、彼にとっては女じゃないとか?
普通に接してもらえて安心する反面、嫌な想像をしてしまう。
「あ、ちーせんぱぁい。おはようございま〜す」
「菜穂ちゃん、おはよう!」
すると更に後ろからやってきた菜穂ちゃんは、細長い指をひらひらとさせ高いヒールをカツカツ鳴らしやってくる。
「あれ、内海さんもいたんですかぁ。めずらしーい」
菜穂ちゃんのそのにや、と笑う顔から『仲直りですかぁ?何かあったんですねぇ』と言いたげなのが分かる。
「阿形。お前はもっとしみじみしろ。何だそのだらだらとした態度は」
「うわぁー、うちのお父さんと同じこと言ってるぅ。内海さんってマジオヤジですねぇ」
「あぁ!?なんだと!?」
菜穂ちゃんは本当に怖いもの知らずだなぁ……。
怠そうに内海さんをかわす菜穂ちゃんと、それに対し叱る内海さん。そんな二人に苦笑いしていると、きたエレベーターに乗り込んだ。