ビター・スウィート



「ちー、意外と目敏いねぇ。俺、普通にしてたつもりなんだけど」

「やっぱりなにかあったんですか?」

「あはは……いやぁ、この前ちーにあんな報告したばっかりで恥ずかしいんだけど、実は昨日彼女と喧嘩して」



広瀬先輩の口から聞く『彼女』の話。その一言に一瞬息が止まりそうになってしまうけれど、平静を装って首を傾げる。



「喧嘩、ですか?」

「うん。それも、もしかしたら別れるかもってくらいの大喧嘩」

「えぇ!?」



そんな喧嘩をするなんてイメージにないだけに驚いてしまう。



「な、なんでですか?」

「昨日営業部の後輩に『仕事のことで悩みがある』って言われて、食事に行ったんだけど……帰宅してそれを言ったら、彼女激怒で」

「……ちなみにその後輩っていうのは、男性ですか?」

「え?ううん、女の子。ほら、ちーのひとつ下の渡辺さんって子」



至って普通に言うあたり、恐らく広瀬先輩は悪気も下心もなく純粋な気持ちで後輩の相談にのったのだろう。

けれど、“女の子と二人きりで食事”というシチュエーションに怒る彼女さんの気持ちのほうが、当然分かるわけで……。


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