ビター・スウィート
「だから、広瀬先輩が幸せになってくれないと嫌です!先輩が愛した人と……幸せになってくれなきゃ、嫌なんです!!」
願う、あなたの幸せ。
突然出した大きな声と、無我夢中で伝えた気持ち。それらに、「はーっ」と息を上げる私に、その場には静けさが漂う。
「ち、ちー……?」
「広瀬。分かったなら今すぐ彼女の所行け。事情があって中抜けってことにしてやるから」
「えっ!?でも……」
「今すぐに、だ」
背中を押しているつもりなのか、低い声で凄むように言う内海さんは、やっぱり怖い。
けれどその甲斐あってか、渋っていた広瀬先輩は小さく頷いてその場を駆け出して行った。
バタバタバタ……と騒がしい革靴の音と、遠くなる背中を見送ると、その場には私と内海さんの二人だけが残された。