ビター・スウィート
そんな空気から逃げるように、私はその場をスタスタと歩き出し、ひと気のない非常階段のほうへと向かう。
するとその後ろをついてくる、内海さんの足音。
「あれで、よかったのか?」
「はいっ。むしろスッキリしました!」
「……だろうな。あれだけでかい声出せばな」
「いつでも声の大きい内海さんには言われたくないですよっ」
軽口を叩きながら、やってきた非常階段。薄暗く、そこにはやはり誰もいないない。
「格好良かったよ、お前」
そこで響いた、彼の小さな一言。
「……かっこ、よかったですか。私」
「おう。かなり、な」
「……えへへ、ならよかったです」
格好良かった、かな。伝えたいこと、きちんと伝えられていたかな。
二人きりになった途端緩む涙腺に、また瞳からはボロボロと涙がこぼれ出す。そんな私を、内海さんは正面から抱きしめた。