ビター・スウィート
「……広瀬か?内海だ。今永井と六階の資料室にいるんだがアクシデントで出られなくなった。至急来て落ちてるキーで開けてほしい。頼んだ」
恐らく広瀬先輩へ電話をかけたのだろう。内海さんは電話を終えるとまた胸ポケットへとしまった。
「広瀬先輩、ですか?」
「あぁ、出なかったから留守電に残した。そのうち聞いて駆けつけるだろ」
「出なかったなら他の人に電話すればいいのに……」
「アホ。こんなみっともない姿見せられるか」
見られたくないというプライドなのか、キッと睨む内海さんにくだらないと思うものの、原因である私はなにも言えず黙る。
とりあえず、今は広瀬先輩を待とう……。
そうふたり無言のまま待つ室内は気まずく、それをごまかすように私はこの隙に資料を探す。
キョロ、と棚を見渡せば、頼まれたファイルが一冊目に入った。
「資料、あったか?」
「あ、はい。この上の棚に……」
話しながら頭上の棚にあるファイルをひとつ引っ張り取る。すると、たまたま一緒に取れてしまった一冊は落下し、私の頭にスコンッと落ちた。