ビター・スウィート



「いったぁ〜……」

「ぶっ」



ところが、痛がる私に彼からかけられたのは心配する声より噴き出す声。



「なっ、なんで笑うんですか!」

「いや……コントみたいだと思って。悪い……ブフっ」

「悪いって言いながら笑わないでください!」



堪えきれていない笑いに怒るものの、彼はやはりニヤニヤと笑う。



む、むかつく……!

けど、相変わらず子供みたいなその笑顔が、ちょっとかわいい。とか思ってしまうところがまたくやしい。

資料を手にじっと彼を見ると、内海さんは思い出したように言う。



「そういや、お前にその資料持ってくるように頼んだ部長。俺、昨日一緒に飯食いに行ったんだよ」

「へ?なんですか、いきなり……」

「で、そこで部長の娘と行きあって、三人で飯食ってたってわけだ」



部長と、その娘さんと三人でごはん……。

ん?あれ?ってことは、昨日内海さんといた若い女の子って……。



「も、もしかして、あの可愛い子が部長の娘さん!?」



内海さんの言葉にもしやと気付く私に、彼は「あぁ」と頷く。



「まだ飲むって言う部長に娘は先帰るっていうから、タクシーで送っていったんだよ」

「あ、だから……」



だから二人でお店を出ていたんだ。なんだ、じゃあ恋人とかではなくてただの上司の娘さんってだけ……。

思わずほっとしてしまう私に内海さんはこちらへ近付き、ふっと笑う。


< 178 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop