ビター・スウィート
「自分が言ったくせに……」
「いや、こんな時間まで残るとは思わなくてな」
「残りますよ!怒られるのも『間に合わなかった』って言うのも嫌ですから!」
「ほー……意外だな」
言い張る私に内海さんはふっと小さく笑うと、近付いてきてよしよしと画面の内容を確認した。
「ここまで出来てれば上等。続きは明日にして今日はもう帰れ」
「はーい、じゃああがります」
「さっさと支度して来い。駅まで送る」
「へ…?」
何てことない顔で言われた『駅まで送る』の一言。それに対し、きょとんと顔を見上げてしまう。
送る…って、内海さんが!?悪魔が!?私を!?
「えっ……えぇ!?本当ですか!?本気ですか!?」
「たかが駅までで驚きすぎだろ。お前は俺を何だと思ってるんだ」
いや、だって……内海さんのことだから『さっさと帰れ』で終わってしまうのだとばかり。
そんな親切な言葉が出てくるとは思わず、驚きは隠せない。
「ほら、早くしろ」
「あっ、はっはい!」
けれどこれ以上待たせようものなら怒られかねない。私は急いでパソコンの電源を落とし、バタバタと荷物をまとめた。