ビター・スウィート
「ちっ違います!ヤキモチなんかじゃ……」
「照れるな照れるな。よしよし」
「話を聞いてくださいよー!」
私の否定を聞く気などさらさらないのだろう。あしらうように頭をぽんぽんと撫でる。
頭に触れる優しい手。その感触が、好き。そう思うと同時に見上げれば、見下ろす彼としっかりと視線があう。
漂う無言と黒く冷めた瞳。その中に、私の顔が映り込む。その顔は徐々に近付いて、こつんと私の額と合わせた。
触れそうなほど、近い唇。
「……永井、」
その薄い唇が、私の名前をなぞる。耳に響く彼の低い声に、ドッと心臓が音をたてた。
近い、あと少しの距離。触れたい。彼に、触れたい。その唇と唇を、重ねたい
つのる欲求に、小さく背伸びをしようとしたその瞬間。
「内海ー?いるのー?」
廊下から聞こえたその声に、はっと我に返り私と彼は顔を離した。
「広瀬か?ここにいる。永井も一緒だ」
「なんでまたそんなところに……あっ、本当に廊下にカードキー落としてる」
「さっさと開けろ。永井、お前は頼まれた資料きちんと持ってこいよ」
留守電を聞いてかけつけてくれたのだろう広瀬先輩のおかげで、ピピッとすぐさまロックは解除された。内海さんはお礼もそこそこに部屋を出て行ってしまう。