ビター・スウィート
大事なのは
ずっと好きだった、広瀬先輩のこと。
でもいつしかこの心を占めていたのは、鋭い目をした彼だった。
「ちー先輩、どうかしたんですかぁ?」
「へ!?」
ある日の午後。今日も仕事に励む私に、隣のデスクの菜穂ちゃんは不思議そうに問いかける、
「な、なにが!?なにかした!?」
「なんかソワソワしてるっていうかぁ、ドギマギしてるっていうかぁ…落ち着かない感じ〜?」
「そっそうかなぁ!?気のせいじゃない!?」
いつも以上に大きな声に、必死な弁解。どう見てもいつも通りではないだろうけれど、私はぶんぶんと首を横に振り否定する。
「あやしー……あ、わかった。もしかして早速新たな恋でもしちゃいましたぁ?」
「え!?」
ずばりと言って見せた菜穂ちゃんに、ギクッと跳ねる心臓。
新たな恋、なんて、そんなっ……。
「わ、私経理部に書類出してくるーーー!!!」
『そんなことない』、そう言えず逃げるようにフロアを飛び出した。