ビター・スウィート
臆病
自分を憎いと思ったのは、これで二度目だ。
一度目は、学生の頃。
花音に気持ちを伝えることすらも出来ず、悔やむだけだった自分を時間に癒されるまでひたすら憎いと思った。
二度目は、先日。
突然の彼女からの一言に、誠実に答えることすら出来なかった。臆病になった自分が、憎い。
「あれぇ、内海さんもうあがりですかぁ?」
ある日の、夕方十八時。
まだ外が明るい時間に仕事を切り上げ、鞄を持ち社内を歩いている俺に通りがかった社員……阿形は、珍しいものを見る目で声をかけてきた。
その口調は、相変わらず締まりがない。
「あぁ、用事があるからな。なにか用か?」
「この書類見てもらいたくってぇ。けどあがりならもういいで〜す、また明日ぁ」
「それぐらい俺じゃなくて永井に聞けばいいだろうが。お前の先輩だろ」
ゴテゴテとした指先の持つ書類を一応受け取りながら、内容を見る俺に阿形は唇をとがらせる。
「ちー先輩、今新規の開発チームに参加しててあんまりこっちにいないんですよぉ」
「ん……あぁ、そうだったか。やけに最近見ないと思ったら」
「向こうから声がかかったのもすごいですけど、ちー先輩もなんか妙にやる気でぇ。『仕事してれば元気になるから!』って言ってたんですけど……どういうことですかねぇ」
じろ、と問い詰めるように俺を見るその目はどこまで分かっているのか。気まずさもあり、俺は「さぁな」と阿形へ書類を返す。