ビター・スウィート
「……嫌いじゃ、ねーよ。すぐ泣くし、仕事のやる気にムラはあるし、男追いかけて入社してくるような不純な奴だけどな」
「でも、そんなタイプだから凌は放って置けないんだよね」
放って置けない。そう、それがあいつに対する一番大きな印象かもしれない。
だって、すぐ泣くんだ。俺の言葉ひとつに。けど、すぐ笑うんだ。広瀬の存在ひとつに。
「あいつが笑うとなんか嬉しくて、泣くと、すごく困る。健気に一人を想いつづけるあいつだからこそ言える、真っ直ぐな言葉は受け入れられる」
今の永井が広瀬のおかけで作られたものだとしても、それすら、愛しいよ。
「……あいつには元々好きな相手がいて、失恋して。それを乗り越えて、俺に好きだって言った」
「それで、凌はどう答えたの?」
「『そいつの代わりにはなれない』って、言った」
俺のその言葉に、花音は一度固まり、かと思えばパンプスを片方脱ぎ、それで俺の頭をスパーン!とはたいた。
「いっ!?」
「この……バカ凌!!」
いきなり叩いておいて……バカ!?
意味が分からず、痛い頭をさする俺に、花音は憤った様子で靴を履き直す。